「ミレニアム2 火と戯れる女」

ミレニアム2 火と戯れる女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)「ミレニアム2 火と戯れる女」上・下巻が文庫判で発売になったので、さっそく読んだが、あまりの凄さに圧倒されてしまった。 「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」でミカエルが雇った調査員リスベット・サランデルが主役になって再登場する。 義務教育を修了しておらず、無能力者として後見人が付けられているが、その実、優秀な調査員であり、ハッカーであるリスベット。強烈な個性の持ち主だが、非常に謎の多い女性であるリスベットの秘められた過去が明らかにされる。 ミカエルの前から姿を消したリスベットが殺人事件の容疑者として指名手配されてしまう。リスベットの無実を信じるミカエルは自分のパソコンにリスベット宛のメッセージを保存する。ハッカーであるリスベットがミカエルのパソコンに侵入して見てくれることを期待したのだ。そして、実際にリスベットがそれを見て、ミカエルのパソコンに返信を書き込む。 ミカエルは必死になってリスベットを助けようとするが、最後にはミカエルに別れを告げ、たった一人で世界を相手に戦おうとするリスベット。 まったく、「ミレニアム2」におけるリスベットには完全にまいってしまった。 そして、終盤における衝撃の展開には「え~~~っ! そんな~~~っ!?」 これはスゴイ! 12月に文庫判が発売される「ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士」も期待大である。 ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」については、これまで書いていなかったが、もちろん、こちらもなかなかおもしろかった。ハリウッド映画化されて、来年2月には日本でも公開されるらしい。しかし、「ミレニアム2 火と戯れる女」はそれ以上にすごかった。 ところで、「ミレニアム」の作者はスウェーデン人であり、「ミレニアム」の舞台もスウェーデンである。そんなわけで、読み始めた当初は、おもしろいけど、馴染みのないような名前が多く、名前が覚えられなかった。いまだにミカエルのフルネーム(ミカエル・ブルムクヴィスト)を正確に言える自信がない。(読む分には問題ないけど。)

「ぼんくら」

ぼんくら(上) (講談社文庫)なにげに読んでみたが、人物造形がよくておもしろい。 ぼんくら同心、井筒平四郎は面倒くさいことが嫌いで、けっこういい加減なところがある。 そもそも家督を継ごうなどとは思っておらず、同心のお役目などまっぴら御免だった。町人たちに混じり、手習いややっとうを教えたりしながら気楽に世渡りしようと目論んでいたのだが、三人の兄が病弱だったり早世したり他家の養子に望まれたりして、意に反して家督を継ぐことになってしまったのだった。 また、子供好きではないが、そのくせ、妙に子供に好かれる。細君に言わせると、自身が子供なので、子供らは仲間を見つけて寄ってくるのだという。 平四郎夫婦に子供がいないので、いずれは養子をもらおうということになるのだが、その候補となって、連れて歩くことになるのが甥の弓之助である。何でも計ってしまうこの弓之助という子供がけっこう鋭くて、平四郎も弓之助からヒントをもらう。かと思うと、風鈴を買ってやれば子供らしく喜んだりして、平四郎は子供を持つというのがこんなに面白いことならば、もっと早くにやっておけば良かった思うのだった。 平四郎の中間である小平次は「うへえ」というのが口癖である。だが、小平次が「うへえ」と言う前に平四郎が「うへえ」と合いの手を入れたら、言うことがなくなった小平次はただ口を開いていたりして、おかしい。 「おでこ」と呼ばれる少年もおもしろい。茂七親分のところにいる少年で物覚えが良く、後々のために残しておいた方がよさそうな話の切れっぱしや人の名前、出来事のあれこれを覚えており、愛嬌のある調子をつけて話すのだが、話の途中で質問などするといけない。聞いたとおりに、そっくりそのまま順番にそらんじているだけなので、話の途中で遮ると、頭っから巻き戻してしゃべり直さないと駄目なのだ。 ときどき登場しては、話を頭の中に書き込んでいくのだが、黒目を上に寄せて記憶する姿がおかしい。 話をそのまま記憶していくのはたいへんだから、長くなると休ませなければならず、休ませると、黒目がまぶたの内側から降りてくるのだ。 時代物のミステリーということになるが、ストーリーそのものよりも生き生きとした登場人物の姿を追いかけるのが楽しかった。 さらさらと読み進み、あっという間に読み終わってしまったという感じがする。

「深海のYrr」

深海のYrr 〈上〉  (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)初めての作家の本で、しかもかなりの長編だと、読むかどうかちょっと迷ったりもする。全3巻で1600ページを越えるとなると、気軽に手を出すことがためらわれた。 しかし、読み始めてみたら、なかなかおもしろくて、長さは気にならなかった。 ノルウェー海でメタンハイドレートの層を掘り続ける新種のゴカイが発見されるところから異変が続出する。カナダではホエールウォッチングの船をクジラが襲い、フランスではロブスターに潜む病原体が猛威を振るう。世界各地に猛毒を持ったクラゲが出現、原因不明の海難事故が続発、そして巨大な海底地滑りが発生すると、巨大な津波によりヨーロッパ北部の都市は壊滅してしまう。 次々と襲いかかる異変は、あたかも人類を標的にしているかのようである。 自然を破壊し続けてきた人類に対して自然が「No」と言っているのか? 異常事態を収拾すべく世界中から優秀な科学者が集められるのだが・・・ 事態収拾は困難極まりない。しかも、裏では陰謀が張り巡らされていて、余計に難しくしてくれる。まさしく人類滅亡の危機である。 科学的事情と知識に溢れたストーリーでリアリティに満ちており、荒唐無稽な話には思えない。だから、読んでいて、恐ろしくなってしまう。 同じ地球上にあって深海は、ある意味、宇宙よりも未知の世界である。望遠鏡で遠い宇宙の星を見ることはできるが、深海を見ることはできない。 それゆえ、こんな可能性もありなのか! まったく驚くべきストーリーというほかない。 (ネタバレしないためには、こんな風に書くしかない。)

「儚い羊たちの祝宴」

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)上流階級のお嬢様が集う読書会「バベルの会」にかかわる5つの事件だが、基本的に独立したストーリーである。 いかにも上流階級のお嬢様然とした文章で綴られているが、非情で残酷な登場人物たち。 文庫の帯に「ラストの1行で世界が反転」と書かれているので、最後にどんでん返しがあるものと思っていたが、どんでん返しとはちょっと違うようだ。「世界が反転」という表現はちょっと違うような気がする。しかし、いずれも衝撃的なラストが待っている。 特に「玉野五十鈴の誉れ」のラスト1行は秀逸である。 「うまいな~~~!」 「こういうオチか~~~!?」 思わずネタバレしたくなってしまうラストである。

「ファウンデーションの彼方へ」

ファウンデーションの彼方へ〈上〉―銀河帝国興亡史〈4〉 (ハヤカワ文庫SF)ファウンデーション・シリーズ(銀河帝国興亡史)はアイザック・アシモフの代表作である。1940年代に発表され、1950年代に単行本化され、三部作としてまとめられた。 それから約30年経過して、1982年になって続編が発表された。それが「ファウンデーションの彼方へ」である。 私は、1980年代に三部作を読んだものの、4作目以降は読んでいなかった。 そして、最近になってようやく4作目の「ファウンデーションの彼方へ」を読んだのだが、う~む、これはなかなか・・・ 三部作は巻を追うごとに「すごい」と思ったものだが、4作目も予想もつかない展開で、期待を裏切らない内容だった。 さらに続編を読んでみたくなったが、ここでちょっと問題が起きた。 ファウンデーション・シリーズはアシモフの別系列の「ロボット・シリーズ」と合わせて一つの未来史として統合されることになり、5作目を読む前に「ロボット・シリーズ」を読んでおいた方がいいらしい。ところが、今や品切れで絶版状態の本もあるようなのだ。 そして、肝心のファウンデーション・シリーズの第5作「ファウンデーションと地球」も同様で書店で見かけることはない。 電子書籍化されれば品切れなどという問題はなくなるのだが。日本ではまだまだ電子書籍が少ないのが残念なところである。