なにげに読んでみたが、人物造形がよくておもしろい。
ぼんくら同心、井筒平四郎は面倒くさいことが嫌いで、けっこういい加減なところがある。
そもそも家督を継ごうなどとは思っておらず、同心のお役目などまっぴら御免だった。町人たちに混じり、手習いややっとうを教えたりしながら気楽に世渡りしようと目論んでいたのだが、三人の兄が病弱だったり早世したり他家の養子に望まれたりして、意に反して家督を継ぐことになってしまったのだった。
また、子供好きではないが、そのくせ、妙に子供に好かれる。細君に言わせると、自身が子供なので、子供らは仲間を見つけて寄ってくるのだという。
平四郎夫婦に子供がいないので、いずれは養子をもらおうということになるのだが、その候補となって、連れて歩くことになるのが甥の弓之助である。何でも計ってしまうこの弓之助という子供がけっこう鋭くて、平四郎も弓之助からヒントをもらう。かと思うと、風鈴を買ってやれば子供らしく喜んだりして、平四郎は子供を持つというのがこんなに面白いことならば、もっと早くにやっておけば良かった思うのだった。
平四郎の中間である小平次は「うへえ」というのが口癖である。だが、小平次が「うへえ」と言う前に平四郎が「うへえ」と合いの手を入れたら、言うことがなくなった小平次はただ口を開いていたりして、おかしい。
「おでこ」と呼ばれる少年もおもしろい。茂七親分のところにいる少年で物覚えが良く、後々のために残しておいた方がよさそうな話の切れっぱしや人の名前、出来事のあれこれを覚えており、愛嬌のある調子をつけて話すのだが、話の途中で質問などするといけない。聞いたとおりに、そっくりそのまま順番にそらんじているだけなので、話の途中で遮ると、頭っから巻き戻してしゃべり直さないと駄目なのだ。
ときどき登場しては、話を頭の中に書き込んでいくのだが、黒目を上に寄せて記憶する姿がおかしい。
話をそのまま記憶していくのはたいへんだから、長くなると休ませなければならず、休ませると、黒目がまぶたの内側から降りてくるのだ。
時代物のミステリーということになるが、ストーリーそのものよりも生き生きとした登場人物の姿を追いかけるのが楽しかった。
さらさらと読み進み、あっという間に読み終わってしまったという感じがする。