「孤宿の人」

最近読んで良かった本。 孤宿の人〈上〉 (新潮文庫)孤宿の人〈下〉 (新潮文庫)時代物というのはあまり読んだことがなかったが、読みやすい小説で、速いペースで読んでしまった。 妻子を殺し、部下を斬り捨て、鬼や悪霊のように恐れられた加賀殿が丸海藩に流されてきた。その加賀殿のもとに奉公することになった9歳の少女、ほう。(ちなみに、ほうという名は「阿呆」のほうから名付けられている。ひどい名前を付けられたものである。) 純真無垢なほうと接するうちに心を開いていく加賀殿。 多くの人が死んでしまい、悲しい話ではあったが、感動的な話だった。 ジャンルに関わらずいいものはいいし、ダメなものはダメだ。というわけで、特定のジャンル、作家にこだわらずに、良い本を求めて、あれこれと気になった本を買ってきては読んでいるのだった。

「永遠の0」

永遠の0 (講談社文庫)「永遠の0(ゼロ)」の「0」は零戦のことである。 戦争は好きじゃないし、戦前の日本も好きじゃない。 なので、こういった本はほとんど読んでいなかったのだが、なんとなく読んだこの本は読んで良かったと素直に思える本だった。 この時代の軍隊で「死にたくない」などと普通なら絶対に言えなかっただろうし、ましてや戦闘機のパイロットであればいつ死ぬかもわからないのに、「妻のために死にたくない」と言った宮部久蔵。臆病者とも言われたが、その実、非常に優秀なパイロットで、さもなければ激戦の最中を生き残ることなどできるわけもなかった。 しかし、妻と娘のために生きて帰りたいと望んでいた宮部久蔵は、終戦直前に特攻で死んだ。 宮部久蔵の孫が終戦60年を前に特攻で死んだ祖父のことをかつての戦友に会って話を聞くことにより、次第にその実像が明らかになっていく。そして、最後に到達した真実に絶句・・・ 小説としておもしろいだけでなく、太平洋戦争がどんなものであったか、その実態がよくわかる点もよいところである。 零戦は開戦当初においては世界最高性能の戦闘機であり、対戦国では零戦とは空戦をしてはならないという命令が下ったというから驚きである。 また、真珠湾攻撃は、大使館職員がパーティーで夜遅くまで飲んでいたため、出勤が遅れ、宣戦布告が遅れてしまい、「だまし討ち」となってしまったとか(トホホな話である。)

「キリストのクローン/真実」

キリストのクローン/真実 (創元推理文庫)前作「キリストのクローン/新生」を読んでから半年待たされたが、ストーリーの方は前作から時間を置かずに始まる。 3個の小惑星が地球に接近。 そして、地球的規模での災厄に見舞われる。 黙示録の世界が現実と化していく・・・ 恐るべき災厄に見舞われていく描写もすごいが、後半でキリストのクローンであるクリストファーの語ることは驚天動地の内容である。 聖書における神の記述には、疑問に思えるようなことが多くある。なぜ神が人間を苦しめるようなことをするのか? それでは神ではなく悪魔ではないか? その回答がここにある。クリストファーが明らかにした真実は・・・ 神と悪魔の転倒。 この小説がキリスト教の国ではどのように受け止められているのか気になるところである。 三部作の完結編では、クリストファーが救世主として本格的に動きだすらしいのだが、しかし、必ずや予想を裏切られることになるらしい。いったい、どんな展開が待っているのか気になるところである。早く続きを読みたいところだが、やはり来年まで待たなければならないのだろうか?

Sony Readerが.book形式に対応

Sony Readerがファームウェアのアップデートによりドットブック(.book)形式に対応となった。 電子書籍には複数のフォーマットが存在する。 せっかく読みたい本が電子書籍化されても、それが自分の電子書籍リーダーに対応していなければ意味がない。 だから、電子書籍リーダーはなるべく多くのフォーマットに対応していてほしいところである。 もっともフォーマットが複数あるといっても、むやみやたらと多くのフォーマットが乱立しているわけではないので、さほど難しい問題でもないだろうとは思っていた。 今のところ、PDF、XMDF、.bookに対応していれば困ることはない。 講談社で今年の春からXMDF形式の販売を終了して、.book形式のみの販売となっていたが、Sony Readerが.book形式に対応したので、講談社の電子書籍も読めるようになった。 個人的には、以前CD-ROM版を購入した「地球樹の女神」などの本が読みやすくなった。 「地球樹の女神」の場合、CD-ROMには、PDFと.bookの2種類のファイルが収録されていて、どちらでも読むことができた。 Sony ReaderではPDFを読むことはできたが、画面が小さいため文字も小さくなって読みづらかった。しかし、.book形式に対応したおかげで、読みやすい字の大きさにして読むことができるようになった。 ファームウェアのアップデートによって機能向上が図られることがわかったことにも安堵した。いくら新しいフォーマットに対応するといっても、新製品に買い替えなければならないとしたら腹立たしいことである。ファームウェアのアップデートなら無料だし、インターネットに接続するだけだから、簡単に済んでしまうからありがたい。

フィリップ・マーロウの日本版

そして夜は甦る (ハヤカワ文庫 JA (501))読み始めてすぐに「これは良い」と思った。 一つ一つの文章が良い。「私は・・・」というように、すべて私立探偵・沢崎の視点で語られるので、沢崎の語り口が良いとも言える。 そして、それはフィリップ・マーロウを主人公とするレイモンド・チャンドラーの小説とよく似ている。 チャンドラーの小説と同じ感覚で読み進めていくことになった。 作者の原尞自身、レイモンド・チャンドラーの小説を愛読し、強く影響を受けているので、いかにもといった感じである。 フィリップ・マーロウはチェスが趣味で、一人で名人の棋譜を並べたりする場面があるが、沢崎は囲碁が趣味で新聞の囲碁欄を読む場面がある。このあたりにもチャンドラーへのオマージュが感じられる。 寡作な作家であることもチャンドラーと似ている。原尞は1988年にデビューしてから、長編は4作しか発表していない。(他に短編集とエッセイがある。)レイモンド・チャンドラーも寡作で長編は7作で、しかもその多くは短編を継ぎ接ぎし、長編として構成し直したものである。 「そして夜は甦る」と「私が殺した少女」を読んだ。どちらも良かったので、あとの2作も近いうちに読むことにしたい。