「キリストのクローン/新生」

キリストのクローン/新生 上 (創元推理文庫)キリストのクローン/新生 下 (創元推理文庫)キリストの遺骸を包んだとされるトリノの聖骸布から採取された人間の真皮細胞は驚くべきことに生きていた。そして、そこから密かにキリストのクローンが作られるところから始まる。 イスラエルでテロが激化し、世界中で突然、数千万人が死亡するという謎の「大惨事」が起こり、アラブ諸国がイスラエルに侵攻したのをきっかけに、ロシアが動いて、核攻撃をするが・・・ その後、国連安全保障理事会が再編成され、国連管理の下、一旦は世界平和がもたらされたが、国連の優れた指導者が倒れると、世界はまたさらに暗い方向に進んでいく・・・ どうやらこの小説は黙示録の世界を現代風に表現しようとしているようである。 三部作の第一作ではキリストのクローンであるクリストファーが国連安全保障理事会のヨーロッパ代表メンバーになるまでが描かれている。ここまででもすでに世界的な災厄に見舞われているのだが、第二作に入ると、さらにエスカレートしてくるらしい。驚天動地の展開が見られるらしいので、早く続きを読みたいものである。 トリノの聖骸布やら約櫃など聖書に関する謎が、SF的な考え方によって解き明かされるのもおもしろいというか大胆というか。 ちなみに、映画「レイダース 失われた聖櫃(アーク)」により日本でもお馴染みの約櫃であるが、この小説でも約櫃を触って死んでしまう人がいた。恐るべき力である。

電子書籍の時代の幕開け?

ようやく日本でも電子書籍が本格的に普及していくことになるのだろうか? 数年前にシグマブック(パナソニック)やリブリエ(ソニー)が発売になったが、普及しないまま消えていった。 その後、アメリカではアマゾンのキンドルが売れ、ソニーのリーダーが追いかけていったものの、日本では発売されず。 日本ではそれよりも携帯電話を利用していくような傾向にあったが、携帯電話の場合、画面も小さいし、文字も小さい。バッテリーのもちが悪いのもネックである。 今年、iPadの発売によって、ようやく日本でも電子書籍に注目が集まり始めた。 しかし、電子書籍端末としてはiPadはさほど良いとも思えなかった。 私のように通勤電車の中で本を読もうという人にはiPadでは大きすぎるのだ。 12月10日発売のソニーのReaderは小さくて、通勤電車の中で読むのにも良さそうである。 モノクロ表示だが、小説を読むのには問題ないし、電子ペーパーを採用していて、液晶よりも見やすいようである。それに、電子ペーパーの場合、バッテリーの持ちがよい。 今回発売の機種には通信機能がないので、オンラインブックストアから直接ダウンロードすることができないという欠点も指摘されるが、私はあまり気にならない。新聞や雑誌をダウンロードして読もうというわけではないのだ。 とりあえず、今あるPDF形式の電子書籍を快適に読むことができるならば、買う価値がある。 使い勝手がいいかどうか、実際に店頭で触ってみて決めることにしよう。 電子書籍で一番気になるのは規格の問題である。 メーカーごとに規格が異なると、競争に敗れた規格の電子書籍を買っていた場合、将来、買い替えを余儀なくされることになるからだ。 早いところ規格を統一してくれるといいのだが、どうなることか? と思っていたら、Googleが参入することによって流れが変わりそうな気がする。 これまで、アマゾン、ソニー、アップルなど各社でユーザーの囲い込みをしていくことになるのかと思っていたが、Googleの電子書籍は多くの端末に対応しており、囲い込みの意味はなくなりそうな気がするのだ。

「ウォーターウォーキング」

丹沢には多くの山があり、多くの登山道がある。 時期を変え、場所を変えて、あちこち歩き回れば、いろいろな花が楽しめるし、違った景色も眺められる。 とはいえ、丹沢の全登山道を歩いたとしても、丹沢を知り尽くしたことにはならない。登山道として整備されていないマイナールートを歩いたとしても、同じことだ。 せいぜいが丹沢の魅力の半分を楽しめる程度だろう。 これは以前私が痛感したことでもある。 丹沢は沢を遡行してみて初めてその素晴らしさがわかると言って過言ではない。 しかし、沢登りは危険も伴うものであり、誰でも気軽に楽しめるというものではない。魅力は感じても自分には無理とあきらめている人も多いことだろう。 そんな人にお薦めの本が発売になった。 ウォーターウォーキング―丹沢・奥多摩・奥武蔵・奥秩父・房総・他先日、何気なく本屋で目についた「ウォーターウォーキング」という本である。 これは「沢登り」ではなく、「沢歩き」のガイドブックである。 例えば、水無川本谷に関しては、F1までのガイドである。F1から先は本格的な沢登りとなるので、F1の下までのガイドなのだ。 したがって、すでに本格的な沢登りをしている人にはたいして意味がないかもしれない。 しかし、だからといって侮れないのがこのガイドブックである。 昨年、私が訪れた玄倉川本流の「石崩れ廊下帯」、玄倉林道が通行止めになる前はちょくちょく訪れた玄倉川の檜洞、5年前に遡行したナメが多くてきれいな水ノ木沢などのお薦めの沢が紹介されているし、沖ビリ沢などこれまでほとんど紹介されていないが良さそうな沢も紹介されている。 沢登りをしてみたいが、自分には無理とあきらめている人にお薦めのガイドブックである。 ところで、この本を本屋で見た後、ネットで知り合った人たちのブログにこの本が紹介された。実はこの本に携わった方は、直接の面識はないが、私もホームページを見て参考にさせてもらっていた方だったらしい。 「ウォーターウォーキング」の詳細ページ

レイモンド・チャンドラーの小説

今でも「推理小説」というのだろうか? それとも「ミステリー」というのか? 以前、「推理小説」という言葉を使ったら、友だちから今は「ミステリー」と呼ぶのだと言われたことがあった。推理小説と呼ぼうがミステリーと呼ぼうが中味に変わりはないのだが。 推理小説というと、犯人探しがメインであって、犯人が分かってしまっていては読む気がしないというイメージがある。 たとえ犯人がわかっていようが、何度でも繰り返し読みたくなるものこそ本物の小説であって、一度読めばたくさんという程度のものなら最初から読む必要なしと思ってしまうのだ。 どんなに巧妙なトリックがあろうが、犯人捜しがメインならばそんなのはゲームと同じではないか? そんなわけで、推理小説の類はほとんど読まないのだが、それでも例外があって、レイモンド・チャンドラーはいいと思うのだ。 長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1)) プレイバック (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-3))先日、久しぶりに「長いお別れ」を読んだ。 あんまり久しぶりだったので、ほとんどストーリーを忘れてしまっており、初めて読むのとたいして変わりなかったのだが、フィリップ・マーロウは格好いいし、独特の文体がまた良い。 これはストーリーがわかっていても、また読みたくなる小説だから、「本物」である。 続いて読んだのが「プレイバック」で、この小説には「しっかりしていなかったら、生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている資格がない」という名台詞がある。 チャンドラーの小説にはけっこう有名な台詞というのがあるらしい。 「長いお別れ」には「ギムレットには早すぎるね」という台詞があって、「長いお別れ」を読むと、ギムレットを飲んでみたくなるのだった。

ストレンジ・ランデヴー

ストレンジ・ランデヴー (集英社文庫)だいたいにおいて好きな小説は長編であり、強い印象を残す短編小説は少ないのだが、例外的にときどき読み返している短編集がある。 平井和正さんの「ストレンジ・ランデヴー」がそれで、これを読むのも今回で5回目となる。 平井さんの小説としては珍しいノンSF作品集だが、平井さんの他の作品同様、キャラクターが生き生きとしていて、何とも言えない魅力がある。 短編小説なので、ストーリーはそれほど凝ったものではないし、何度も読んでいるから物語の最後がどうなるかもわかっている。それでも、ときどき読みたくなっては読み返すことになるのだ。 やはりキャラクターの描写が良いからなのか? 単にストーリーの展開を追うだけだったら、さほど魅力は感じないところだろうが、この作品集の場合、登場人物が生き生きとしていて感情移入しやすいのがいいのか? 小説はプロットよりも何よりもキャラクターが一番大事であると感じさせる作品集である。