読み始めてすぐに「これは良い」と思った。
一つ一つの文章が良い。「私は・・・」というように、すべて私立探偵・沢崎の視点で語られるので、沢崎の語り口が良いとも言える。
そして、それはフィリップ・マーロウを主人公とするレイモンド・チャンドラーの小説とよく似ている。
チャンドラーの小説と同じ感覚で読み進めていくことになった。
作者の原尞自身、レイモンド・チャンドラーの小説を愛読し、強く影響を受けているので、いかにもといった感じである。
フィリップ・マーロウはチェスが趣味で、一人で名人の棋譜を並べたりする場面があるが、沢崎は囲碁が趣味で新聞の囲碁欄を読む場面がある。このあたりにもチャンドラーへのオマージュが感じられる。
寡作な作家であることもチャンドラーと似ている。原尞は1988年にデビューしてから、長編は4作しか発表していない。(他に短編集とエッセイがある。)レイモンド・チャンドラーも寡作で長編は7作で、しかもその多くは短編を継ぎ接ぎし、長編として構成し直したものである。
「そして夜は甦る」と「私が殺した少女」を読んだ。どちらも良かったので、あとの2作も近いうちに読むことにしたい。