「ソロモンの偽証」

ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)ソロモンの偽証: 第I部 事件 下巻 (新潮文庫)不登校だった中学生がクリスマスイブの夜、校舎の屋上から落ちて死亡。遺書は見当たらなかったが、警察は自殺と判断。 ところが、年が明けてから、不良グループによる殺人だという告発書が校長らに届く。 告発書の内容は虚偽であると判断し、誰が書いたか探り当てるのだが・・・ 悪意のもとにこれがテレビ局の記者に渡り、テレビで報道されてしまう。 そして、また一人が交通事故で死亡し・・・ 決して責任逃れに走っていたわけでもなく、慎重に対応しようとしていたはずなのに、学校は大混乱。 いったい何が真実なのかわからず、ただただ翻弄される中学生たち。 そして、中学生たちは自らの手で真実にたどり着こうと、学校内裁判を行うことになる。 この学校内裁判がまたすごい。検事側、弁護側どちらも並の中学生じゃない。まったく、スリリングな展開をたどる。 そして、最終的にたどりついた真実に驚愕する。 文庫判で全6巻、トータル3000ページに及ぶ大作だが、読み始めるとページをめくる手が止まらなくなって、短期間で読み終えた。 第Ⅰ部ではこれでもかというほどの悪意の連鎖に収拾がつかなくなりそうで、暗澹たる気分になったものである。 すごいのは、やはり第Ⅲ部で、感情を揺さぶられ、しばしば涙が出そうになった。

間違ったことが起こってしまった!?

平井さん死去の知らせはいまだにショックが尾を引いていて、悲しくてならない。 なんだかとんでもない間違ったことが起こってしまったという感じである。 小説版の「幻魔大戦」は、20巻で第一期完結の後、「ハルマゲドン」と改題して3巻まで書かれたところで中断していた。 もう一つのシリーズである「真幻魔大戦」も東丈の帰還を目前にしていたらしいのだが・・・ もう書かれることはなくなってしまった。 物語の途中で東丈が死んでしまった、そんなあり得ないことが起きてしまったような気がしてならない。 両シリーズの再開を待ちわびていたが、21世紀に入って執筆された「幻魔大戦deep」と「幻魔大戦deepトルテック」はまったく別の幻魔大戦だった。 この時点で、もうストレートな続編が書かれることはないのかな・・・と思いつつ、いつの日にかと、わずかな期待を抱いていたのだが・・・ やはり、ショックは大きくて、いまだに受け入れられない。 昨年の夏、小学館のコミックサイト「クラブサンデー」で「幻魔大戦Rebirth」(原作/平井和正・石ノ森章太郎、脚本/七月鏡一、漫画/早瀬マサト・石森プロ)がスタート。 また、12月には角川文庫版の「幻魔大戦」20巻が生頼範義イラストレーション収録で電子書籍化された。 角川書店とは「地球樹の女神」改竄事件以来、絶縁状態だったので、この電子書籍化は大きな驚きだったのだが、ここに来て何か状況に変化があったのだろうかと思っていた。 まさか、こんなことになろうとは・・・

平井和正さん死去

1月17日、作家の平井和正さんが亡くなった。 古くは漫画「8マン」の原作を手がけ、小説としては「ウルフガイ」シリーズや「幻魔大戦」シリーズが大ヒット。 80年代に「幻魔大戦」をきっかけに読み始め、手に入る限りすべての作品を読み、新作が出ればすぐさま読んだ。新作を読み終えると、旧作を読み返し、けっこう長期間に渡って他の作家の本はほとんど読まなくなったほど、繰り返し平井作品を読み続けてきた。 ここ数年、新作が発表されないのでどうしているのかと思っていたのだが、お亡くなりになったと知って残念でならない。 ご冥福をお祈りします。 改竄事件やら“言葉狩り”により出版社と喧嘩して、近年は自主出版の方向に向かったため、現在は一般書店に平井作品はほとんど見ることができない。電子書籍化された作品も多くあるが、電子書籍化されていない小説もまだまだ多く、寂しい状況である。ちなみに、電子書籍については早い時期から関わっており、インターネットが普及する前のパソコン通信の時代に新作を発表するということも行っていた。 今から考えれば不思議なことだが、平井和正さんのファンクラブには参加していなかった。学生時代だから参加していてもよかったはずなのに。参加していれば、もう少し身近に接する機会もあっただろうに、なぜ参加しなかったのだろう。 しかし、2003年に行われた、作家生活40周年記念の講演会に参加できたのはいい思い出である。

「サクリファイス」

サクリファイス (新潮文庫)自転車競技を扱った小説である。 自転車は団体競技であり、チームのエースを勝たせるためにサポートは自分を犠牲にして働くことになる。エースはサポートを踏み台にして勝ちに行く。それでいて表彰はあくまでも個人であるのが特徴である。 エースの自転車がパンクしたら、サポートは引き返してエースのタイヤ交換を待ち、後れを取ったエースを先頭集団に追いつくように引っ張っていくといったこともあり得る。(もちろん、エースをあきらめてサポートが勝負に出るというのもありだが、どちらが勝つ可能性が大きいかによって判断するのである。) 誰だって自分が勝ちたいと思うものだが、エース以外はエースを勝たせるためにサポートに徹することになる。 さて、主人公のチームのエースは、以前、有望な若手をつぶしたという噂がある。エースの座を守るためにやったのか? その犠牲者(?)は下半身不随となって選手生命を絶たれていた。 しかし、これに関係して悪辣な罠が仕組まれる。 そして発生した重大事故。 回避不能な罠に対して最良の結果をもたらすべく取った驚くべき行動。普通の人間には絶対にできないことだが、この人は本当に自転車が好きで、チームのことも考えていたのだな・・・この事故の裏に隠された秘密に驚かされた。これは、なかなか・・・

「陽気なギャングが地球を回す」

陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)4人組の強盗のお話。成瀬は沈着冷静で、相手が話すことが嘘か本当か正確に見分けることができる人間嘘発見器とも言える人物である。 銀行強盗の正否は警察に通報されないかどうかにかかっている。警察に通報されてしまえば、人質を取って立てこもったところで、結局はつかまってしまうのがオチである。だから、絶対に通報させないようにして強盗を行う。 雪子は自動車の運転担当。銀行まで3人を送り、お金を奪った後は、再び彼女の運転する自動車で逃走する。雪子は正確な体内時計を持っており、時計がなくとも秒単位で時間を計ることができるのが特徴である。銀行に強盗に入ってから出てくるまでの時間が決められているし、事前に何度も逃走経路を走らせて入念に調べており、逃走する際は赤信号で止まることなく自動車を運転して、逃げおおせてしまうというわけである。 久遠は天才的なスリ師である。強盗そのものには直接関係ないが、ちょっと気になる人物がいたりすると、財布をすって何者か知る手掛かりをつかんだりするのである。 響野はとにかく話し好きな男なのだが、この男がはたしている役割がいまいちわからない。他の2人がお金を詰め込んでいる間、この男は銀行員やお客さんたちに演説というかお話をしているのである。 とまあ、現実的な設定ではないが、その分、おかしくて笑えるストーリーである。 陽気なギャングの日常と襲撃 (祥伝社文庫)「陽気なギャングの日常と襲撃」は続編にあたるが、これまた笑ってしまうようなストーリーである。 発信器を使って誘拐犯の潜むビルに向かったものの、相手につかまってしまい、 「おい、おまえは何しにここに来たんだ。きちんと説明すれば、帰してやる」 「新聞の勧誘に来ただけで」 「何新聞だよ」 「えっと、恐怖新聞です」 即、監禁されてしまうのだった。