朝は3時頃から、起き始める人がいるようである。山頂で御来光を見ようという人たちも少なくないだろう。4時を過ぎると、もう活動開始している人多数。東の空が赤くなってきたという話し声を聞いて、ようやく起きる。小屋の前からだと槍の穂先が邪魔で御来光は見えないようなので、御来光はあきらめて、さっさと食堂の前に並ぶ。5時、朝食。
5時25分、槍ヶ岳山荘を出発。右に笠ヶ岳、左に常念岳を眺めながら、南へと向かう。3000mの楽しい稜線歩きだ。
5時42分、大喰岳。6時5分、中岳。6時49分、南岳。それぞれの山頂で写真を撮りながら歩いていく。
6時55分、南岳小屋を通過して、いよいよ大キレットへと向かう。急な下りで、それまでの快適な散歩道とは違い、自ずと気を引き締めていく。急なガレ場を一気に下っていき、ハシゴを2つ下りていくと、やがて平坦な道になる。しばらくは、普通の登山道を歩いていく。さすがにこのコースを歩く人は少ないようだが、それでもポツリポツリと人に会う。
歩きやすい登山道をしばらく行くと、長谷川ピーク。8時4分の到着。途中、写真を撮りながらとはいえ、コースタイムより遅い。さすがにきびしい稜線だからかな。よしよし、あわてる必要はないのだから、この調子でゆっくり行こう。
長谷川ピークは、両側がスパッと切れ落ちたナイフエッジの稜線。なかなか怖そうなところで、さすがに緊張。でも、事故多発地点の長谷川ピークと飛騨泣きには、昨年秋、滑落防止処置が大々的になされたということで、実際、かなり歩きやすかった。
このコースは登山者少ないと思っていたら、飛騨泣きのあたりからは、案外多くの人に会った。北穂からやってきた単独のおばさんから、「大キレットは、どこ?」と聞かれた。いちおう、このあたりが大キレットの核心部なんですが・・・。しかし、このおばさん、北穂から槍へ向かう、より難易度の高いルートにもかかわらず、余裕がありそうだった。
飛騨泣きが最大の難所かと思っていたら、怖い思いをすることもなくあっけなく通過。
これを過ぎると、あとは北穂へ向かって、ひたすら急な登りである。
9時11分、北穂高小屋に到着。ここで、休憩。あれれ、コースタイムよりもかなり早いんじゃないか!? 特に急いだつもりもなかったのだけど・・・。
山頂にいって、360度の展望を楽しむ。
登ってきた道を見下ろすと、よくこんなところを歩いてきたものだと思うようなコースである。長谷川ピークや飛騨泣きのあたりは、ほんとうに上から見下ろす形になるから、すごい急斜面を登ってきたのがわかる。
9時33分、北穂高岳を出発。ここから涸沢岳までのコースもきびしい岩稜が続く。特に怖いようなところはないが、全般的に見ると、大キレットよりもきびしいかもしれないね。(大キレットは南岳から一気に下ると、長谷川ピークまではわりと普通の登山道だから)
最低コルまでがけっこう長く感じられた。けっこう下っていったようで、そろそろ登りになるかと思いきや、えー、まだ下るの!? っていう感じで、けっこう長い。
ようやく最低コルを通過して、登りになる。いたるところにクサリがつけられているが、その大半がちょっとばかり邪魔くさく感じられる。岩をつかんでいった方が歩きやすいと感じられた。もっとも、クサリがついていると、それがルートだと一目瞭然というメリットはあった。また、逆コースで下りならば、けっこうクサリを使ってしまうのかもしれない。
涸沢槍への最後の登りが難所ということだったが、邪魔なクサリが多いなあと思っているうちに、登ってしまっていたよ。あのクサリがガイドブックなどで紹介されていた難所だったのかといった程度であっさり通過してしまった。
11時11分、涸沢岳に到着。ここからの眺めもまた言うことなし。
涸沢岳からは下に穂高岳山荘が見える。涸沢岳からの下りは普通の歩きやすい登山道である。
11時29分、穂高岳山荘に到着。2日目の行程はこれで終わり。奥穂高岳の山頂まで往復しようなどとは考えない。おいしいところは明日に取っておかなければ。実際のところ、けっこう疲れてもいた。この疲れは、きびしい稜線を歩いてきた疲れというよりも、1日目にバカみたく長い距離を一気に歩いた疲れだな。
小屋の前で涸沢や常念岳など眺めていると、奥穂高岳からヘルメットをつけた集団が下りてきた。ザイルも持っており、ははぁ、西穂からやってきた人たちだな。でも、このルートってザイルがないとだめなのかな?
槍ヶ岳から穂高連峰へのコースは、私だけでなく、多くの登山者が一度は縦走してみたいと思うコースだろう。とはいうものの、一般コースでは最もきびしいコースと言えるので、行ってみたいけど、不安があるという方も多いかもしれない。そこで、私的な感想を言うと、確かにきびしい稜線歩きを強いられるけど、このコースはやっぱり一般コースであり、慣れた人なら問題なく歩けるだろう。慣れた人とは、たとえば、槍の穂先を往復するのに、恐怖感を感じることなく、普通に上り下りできる人である。槍の山頂を往復するのに恐怖感があるなら、つらい思いをするだけに終わってしまうかもしれない。やはり山は楽しんで登ってほしいので、無理はしないほうがいいと言いたい。
このコースを歩いてみて、本当によかったと思った。槍や穂高って、本質的にああいうきびしい岩稜であり、このコースを歩いてこそ、その本質を知ることができるんだ、などと、さもわかったような気になってしまう。誰にでも勧められるコースではないが、慣れた人には一度は歩いてほしいコースだと思う。(ただし、悪天候時は、危険が増すだけで、いいことなんて一つもないから、素直にあきらめよう。死亡事故も多発しているコースであることは確かなのだから。)