八方尾根はゴンドラとリフトを利用して標高1800mぐらいまで一気に上がれてしまうからお手軽なコースである。
朝一のスーパーあずさに乗っていったので、八方池山荘の前から登り始めたのは12時15分だった。
くもっていて、ときどき霧雨が降る天気で、展望はまったくなし。
高山植物の花の最盛期はすでに過ぎていたものの、けっこうまだいっぱい花が咲いていた。チングルマはすでに花は終わって、実をつけていた。コバイケイソウももう終わっていると思ったら、まだ咲いていた。
八方尾根は歩きやすい、なだらかな登山道だったが、けっこうハイペースで登っていくので、やっぱり汗をかいた。普段よりも荷物は重いので、速く歩けば、それほど楽でもない。景色が何も見えないので、ひたすら登っていった。
1時51分、唐松岳頂上山荘に到着。一日目に五竜山荘まで行けると、二日目が楽になるのだが、この時間では3時を過ぎてしまうので、唐松岳頂上山荘泊まりとして、さっさと小屋に入った。
小屋に荷物を置くと、唐松岳の山頂へ登ることにした。
2時14分、唐松岳山頂に立つ。が、何も見えず。晴れていれば眺めがいいのだろうが、雨が降っているのではどうしようもない。さっさと下りて、小屋に戻った。結局、今日は写真は一枚も撮らなかったのだった。
山荘のそばにはコマクサが咲いていた。
(2日目)
2日目の朝は快晴。雲海から登る日の出を見て、朝食を済ませた後、午前6時出発。
牛首からの下りは前方に五竜岳の眺めがよかった。
今日は唐松岳頂上山荘から五竜岳、鹿島槍ヶ岳と越えて、一気に冷池山荘(つべたいけさんそう)まで縦走してしまう予定だが、このコースタイムは約12時間である。しかし、冷池山荘には3時までには着きたいので、しっかり時間をチェックしていった。もし、遅れそうなら、冷池山荘はあきらめてキレット小屋に泊まるつもりだが、大丈夫だろうとは思っていた。
山小屋では翌日に疲れを残さないようにストレッチをやっているが、それで疲れが完全に取れてしまうというわけでもない。普段よりちょっと荷物が重いし、標高が高いせいもあってか、それほど楽には歩けなかった。
8時4分に五竜岳の山頂に到着。
天気は快晴で、山頂からの展望は素晴らしかった。登ってきた道を振り返れば、白馬のほうの山並みが見渡せた。手前の唐松岳は標高が低いので、五竜岳からだと目立たない。西には剱岳や立山がきれいに見えた。そして、南にはこれから向かう鹿島槍ヶ岳が見え、遠くには槍ヶ岳なども見えていた。昨日は何も見えなかったが、この五竜岳からの展望だけでもう来た甲斐があったというものである。
8時13分、五竜岳を出発。
五竜岳からの下りではG4、G5などの岩峰を越えていくので、気を抜けないが、怖いような場所はなかった。
朝のうちは快晴だったが、時間とともに次第に雲が出てきて、剱のほうにも雲がかかり始めた。そして、10時頃になると、今日はもうだめかという感じになってきた。
9時58分、口ノ沢のコルに到着。次のキレット小屋を目指す。
相変わらず、クサリやハシゴなどが設置されたコースを進んでいき、10時41分、キレット小屋に到着。この先、いよいよ難所の八峰キレットへと向かうので、ここでちょっと休憩。ここまでですでにコースタイムよりかなり速いペースで歩いてきており、冷池山荘には3時までには確実に到着できそうなので、一安心。
10時45分、キレット小屋を出発。キレット小屋からはいきなりハシゴの登りで始まる。そこから少し歩いていって、下りのハシゴに行き当たると、いよいよ八峰キレットである。信州側が切れ落ちていて、岩壁に沿ってクサリが設置された登山道を見ると、ちょっと緊張。ハシゴを下っていき、いよいよ難所の通過だが、道はしっかりしており、クサリもしっかりしているので、問題なく普通に歩けた。左側が切れ落ちているとはいうものの、それをのぞき込むわけではないので、特に恐怖感もなかった。さらに、ハシゴを下って、信州側から黒部側に回り込むと、キレットの核心部となった。両側の岩がほとんど垂直に切れ落ちているところで、迫力があるが、登山道自体は特に危ないところではなかったので、荷物を下ろして、写真を撮ったりした。
こうして、恐怖感をおぼえることもなく、あっけなく八峰キレットを通過した。
キレットを通過すると、いよいよ鹿島槍への登りが始まる。岩場の急な登りでクサリも多いが、特に問題なく登っていった。ここに限らず、五竜から鹿島槍にかけての登山道では岩につけられたペンキの印(矢印や○、×)を確認しながら歩いていくところが多かった。岩場の登りもペンキ印に従っていけばいいので、案外気軽に登っていった。
岩場とはいっても、一般コースであり、クサリの設置されているところも多いので、さほど問題はなかった。沢登りで、小滝を登っていくよりも危険は少ないはずである。やはり、初心者向けの沢とはいえ、沢登りをやっていると、一般コースの岩場もさほどきつくはないということか。
しかし、登りだから、案外簡単に登っていったが、逆コースで下りだったら、けっこういやな場所も多かったかもしれない。
しばらくすると、鹿島槍の北峰が見えてきた。キレット小屋からのコースタイムから考えると、ちょっと早すぎるような気もしたが、やはり北峰以外にあり得なかった。やがて、北峰と南峰の間の吊り尾根に出た。ここで荷物を置いて、北峰へ向かっている人たちもいたが、私は荷物を背負ったまま北峰へ向かった。
11時52分、鹿島槍ヶ岳北峰に到着。
鹿島槍は晴れており、展望はよかった。五竜のほうは雲がかかっていたが、それ以外はわりとよく見えた。槍・穂高のほうも見えていた。
北峰の山頂で写真を撮り、昼食にした。
12時12分、北峰を出発。
吊り尾根から南峰へはまた岩場の急な登りだった。
12時37分、鹿島槍ヶ岳南峰に到着。ここでまた写真を撮り、休憩。
12時55分、南峰を出発。ここから冷池山荘までのコースタイムは1時間半なので、余裕で下っていった。
南峰からは、それまでとはうって変わって、なだらかで楽な道になった。あらためて、五竜から鹿島槍への岩稜が険しかったことに気づいた。五竜から鹿島槍へ向かっているときは、それが当たり前のように感じていたが、鹿島槍からの下りの道を歩いていくと、五竜から鹿島槍の道がいかに険しかったかがわかった。やはり、五竜から鹿島槍へ縦走する場合、ある程度山を歩き慣れていないときついコースということになりそうである。
五竜岳では、今月、60歳の女性が死亡する事故が発生している。唐松岳頂上山荘の同じ部屋にいた人の話では、ハイマツに足を引っかけたのが原因で、落ちたらしい。
クサリやハシゴが設置されているところでは、誰でも注意して歩いていくが、難所を通過した後、気を抜くと何でもないところで転ぶことも十分にあり得る。今回、五竜から鹿島槍へ縦走していて、怖いと感じたことはなかったが、気を抜くことはできなかったことも確かである。
今回のコース中、いたるところでトウヤクリンドウを見かけたが、ほとんどは花が開いていなかったのは残念。
1時25分、布引山に到着。時間に余裕はあったが、ここでは休憩せずにそのまま通過。
冷池山荘目指してしばらく下っていって、もうそろそろだろうかと思っていたら、先のほうから人の声が聞こえてきた。冷池山荘に来ている人たちの声だろうと思っていったら、そうではなかった。小屋よりももっと向こうの冷乗越のあたりに大集団がいたのだった。
あの集団がみんな山小屋にやってきたら、たいへんな混雑になるので、ゾッとした。
2時7分、冷池山荘に到着。やっぱり今日は中学生がくるので、混雑するということだった。
部屋は3人分のスペースに4人が寝ることになった。混雑しているとはいえ、それほどきつくなかったのでホッとした。中学生の集団は種池山荘と冷池山荘に分かれて泊まったらしい。
中学生の集団が泊まっていたが、特に騒がしいということもなかったので、まずまずであった。
(3日目)
朝食の後、ご来光を見ようと外に出て行く。雲海の上が赤くなり太陽が姿を見せるかと思いきや、白くなってしまう。結局、そのまま太陽は姿を見せず、あきらめて小屋に戻る。
5時45分、冷池山荘を出発。
冷池山荘でもストレッチはやっていたものの、さすがに太股に疲れが残っていた。
それでも歩くペースはほとんど落ちず、いいペースで歩いていった。
6時27分、爺ヶ岳に到着。くもっていて写真を撮るにはいまひとつだったが、鹿島槍ヶ岳、剱岳、針ノ木岳、そして槍ヶ岳なども見えていた。
6時33分、爺ヶ岳(中峰)を出発。
6時45分、南峰に到着。ここでもまたちょっと休憩して、写真を撮ったりした。
6時53分、南峰を出発。
種池山荘まではなだらかな道で、五竜から鹿島槍への岩稜とは対照的である。
7時17分、種池山荘に到着。休憩せずに、そのまま下山する。あとはもう柏原新道をひたすら下っていくだけである。
柏原新道では登ってくる人たちとも随分すれ違ったが、その中で一人見たような人が来ると思ったら、知り合いに出会った。まさかここで知り合いに会うとは思わなかったので、びっくりである。この時間に登ってくるということは夜行で来たということになるが、日帰りというのには驚きである。
8時57分、登山口に下りた。ここから扇沢のバス停までは舗装した道路を歩いていく。
9時10分、扇沢に到着。
もともとお昼までには余裕で下りられるとは思っていたが、こんなに早く下りてしまうつもりだったわけではない。こんなことなら、もう少し山の上でのんびりしてくればよかった、と思ってももう遅い。
扇沢からトロリーバスに乗れば、簡単に黒部ダムへ行くことができるのだが、もともとまったくそんなことは考えていなかったし、あまりにもとってつけたようなので、あっさりと帰ることにした。
この3日間、暑さを逃れて、楽しく過ごすことができたと思ったら、実は下界も涼しかったようで……。しかも、この後再び残暑がぶり返すという予報を聞くと、ちょっと釈然としないものもある。とはいうものの、五竜からのすばらしい展望を楽しむことができたので、それだけでもう十分に満足できた今回の北アルプスだった。