玄倉川は、かつて、ダムができる前は「関東黒部」とか「丹沢黒部」と呼ばれ、その遡行・下降は熟練者のみがたどれる豪快なルートだったらしい。
ダムによって水が堰き止められて、昔がどれだけすごかったのか想像も及ばないが、モチコシ沢出合から玄倉ダムまでの区間は今でも「丹沢黒部」と呼ばれたのもうなずける通過困難な淵が続く、美しいところである。
かつて、この場所を訪れて、写真だけ撮って引き返したが、一度はここを通過してみたいと思い続けていた。そして、今回、ようやくここを通過することにしたのである。
玄倉川でキャンプをしていた人たちが濁流にのまれるという悲惨な事故が起きたのは10年前のことだが、今はもうすっかり忘れ去られたのか、彼の地ではけっこう川遊びをしている人が多い。だから、玄倉林道もけっこう車が入っていた。
通行止めとなっている青崩隧道の手前で河原に降りていく。もともとモチコシ沢への入口として歩かれているところである。
河原に降り立てば、右手に仏岩がそびえている。下から眺めるのも久しぶりである。
ここから河原を遡行していく。始めは普通の河原だが、次第に巨岩が多くなってくる。上流に玄倉ダムがあるため水量は少ないが、両岸は切り立った深い谷であり、玄倉川が丹沢黒部と呼ばれたのもうなずける。
川が右に大きく曲がっていくと、ますます谷は深くなる。
玄倉川が林道から最も遠く離れたところで、左の切り立った崖に裂け目が現れる。この細い裂け目を流れてくるのがモチコシ沢であり、奥に玄倉川流域でも最大級の大滝が垣間見える。
その裂け目のようなところに入っていって、モチコシ沢の大滝を見物する。
滝の下で写真を撮っていたら、いつの間にかもう一人やって来て、私より手前の場所で写真を撮って引き返していった。案外、ここまで来る人はいるものなのだろうか?
出合まで引き返すと、本流をさらに遡行する。
左に向山沢の大滝を見て、さらに進むと、いよいよ核心部分となる。
白い岩と青い水がきれいなところである。
そして、行く手をさえぎるように川幅いっぱいに横たわる岩が現れる。すぐ上流に玄倉ダムがあるため、このあたりはほとんど水流がない。2mほどの岩の中央を水が少し流れ落ちており、この手前は広い釜になっている。以前来たときは、青々とした水をたたえていたが、今回は釜が埋もれたのか水量はかなり少なくなっていた。
ここが石崩れ廊下帯の核心部(「石棚」と呼ばれるらしい)の入口である。(「石崩れ廊下帯」、「石棚」は、松田警察署の西丹沢登山情報による。)
核心部の入口は左から簡単に越えられる。
入口を越えると、いよいよ本格的なゴルジュである。6年前に訪れたときは、青々とした水をたたえた淵が続き、非常に美しいところだが、とてもではないが通過できないと引き返したところである。
しかし、今回はその淵も砂で埋もれてしまったか、水量は少なく、以前ほど青く見えなかった。
上の写真を撮った場所自体、前回は青い水をたたえていたような気がするのだが・・・
とはいえ、中央突破する場合、背が立つかどうかは?である。
ここを通過する方法は右岸(左側)の岩に設置されたロープを使って越えるか、中央を泳ぐかである。今回は最初から中央突破するつもりで、荷物がスッポリ入るビニール袋なども用意していったのだった。
中央突破すると、その先は水が少なかった。深い淵が続くと思っていたので、ちょっと拍子抜けしてしまった。
次は、また広い釜があって、左端から水が流れ落ちている。
右は巨岩が積み重なっているが、ここは右からあっさりと越えられた。
これを越えると、上は普通の河原だった。通過困難な淵が続くと思っていたので、意外な感じすらした。
そして、ゴルジュ出口の淵と小滝が現れる。
このあたりも以前は通過困難だったらしいが、今回はほとんど問題なし。上の写真の中央の岩から越えていった。
ゴルジュから抜け出すと、正面・石崩隧道のユーシン側の入口のところでアッチ沢が滝になって流れ落ちており、そこから登って玄倉林道に上がる。
玄倉川の本流はここで左に曲がって玄倉ダムである。
玄倉林道を少し歩き、板小屋沢の滝を見た後、林道が右にカーブするところで、再び玄倉川に降りていった。
玄倉川の本流もこのあたりは特に問題のない河原歩きとなるが、暑い夏は林道を歩くよりも川をザブザブ歩いた方が気持ちがいいというものだ。
ピンクの花が目を惹いたので、寄っていって見たら、ビランジだった。
同角沢出合まで玄倉川の本流を遡行していった。
同角沢出合では、釣り人が2人。青崩隧道が通行止めでもここまで来る人たちがいるのだった。
同角沢F1の下段は何の問題もないので登ってみると、上段の滝は小釜を持っているのがわかった。上段を登る気はないが、眺めてみると、それなりに足場があるようだ。また、このあたりにもビランジがけっこう咲いていた。
同角沢出合で昼食にして、ここから林道に上がったのだが、もう少し本流を遡行してから林道に上がってもよかったかもしれない。
林道に上がると、ユーシンの先まで歩いていった。ユーシンから先は落石した箇所も多く、ちょっと歩きにくくなった。
オガラ沢出合からマイナールートに入り、鍋割山へ登っていった。
玄倉林道の通行止めもあり、最近はこのあたりを歩く人も少なそうである。
鍋割山に登り、しばらく休憩してから大倉に下山した。